武蔵野大学・上岡副学長より応援メッセージ|「体験が『共生』を育てる」
私は武蔵野大学で教育学を研究し、教員養成に携わっています。未来の教師や保育者を育てる中で実感するのは、教育は知識を教えるだけではなく、「本物との出会い」が人の考え方を大きく変えるということです。そのことを改めて実感したのが、2026年7月9日、武蔵野大学教育学科・幼児教育学科の学生26名を対象に実施した「UD落語は保育・教育にどのように生かせるか?」という授業でした。

教室で春風亭昇吉師匠が第一声を発した瞬間、学生たちの体が思わずぴくっと動きました。
その迫力ある声と表現力に教室の空気は一変し、学生たちは瞬く間に落語の世界へ引き込まれていきました。その後、落語の魅力だけでなく、「ユニバーサルデザイン落語」の考え方を学び、「この発想を保育や教育にどう生かせるか」をテーマにグループワークを行い、それぞれが自分の考えを発表しました。学生たちは、ユニバーサルデザインとは「特別な人への配慮」ではなく、「最初から誰も取り残さないように考えること」であることを、自らの体験を通して理解していったように思います。
ユニバーサルデザイン落語の理念を具体的な形としてプロジェクトとしたものが第1弾の「UD落語絵本」です。落語を絵本として親しみやすく表現するだけでなく、触って楽しめる工夫や多様な表現方法を取り入れることで、障害の有無にかかわらず、子どもも大人も同じ作品を共有し、一緒に笑い、一緒に楽しめる文化を生み出しました。伝統芸能を「鑑賞するもの」から、「みんなで体験するもの」へと広げた点に、このプロジェクトの大きな価値があります。

そして今回の第2弾「初天神」では、その挑戦はさらに大きく発展します。手話や字幕に加え、人気声優による音声、3D造形物を組み合わせた動画絵本として無料公開し、障害の有無や年齢、言語の違いを超えて、より多くの人々が同じ物語を楽しめることを目指しています。さらに、障害のあるアーティストが作品づくりにも参加し、「支援される人」と「支援する人」という枠組みを超えて、多様な人々が共に文化を創り上げるプロジェクトとなっています。「誰かのために」ではなく、「誰もが共につくり、共に楽しむ」という姿勢そのものが、ユニバーサルデザインの理念を体現しているのではないでしょうか。
これらのプロジェクトは、一冊の絵本を制作するだけではありません。文化を通して共生社会を育み、未来の子どもたちへ「みんなで笑い、みんなで楽しむ」喜びを届ける挑戦です。伝統文化は、そのまま守るだけでは未来へ受け継ぐことはできません。時代に応じて新しい表現を取り入れ、より多くの人に開かれた文化へと育てていくことが大切です。ユニバーサルデザイン落語絵本は、その可能性を示す、日本ならではの素晴らしい取組です。
この素晴らしい活動がさらに多くの方々の共感と支援によって広がっていくことを、心より応援しています。
武蔵野大学副学長・教育学部教授
上岡 学

プロフィール
東京都大田区出身。東京学芸大学大学院修了。私立桐朋学園小学校教諭を経て、武蔵野大学教育学部教授。日本特別活動学会理事。これまで東京学芸大学、上智大学、立教大学、共立女子大学で非常勤講師を務めるほか、千代田区、西東京市、武蔵野市の教育委員会点検・評価委員などを歴任。2020年より武蔵野大学副学長。